天聲人語 2008/11/5
がん闘病を体験したエッセイスト岸本葉子さんによれば、医師の説明を聞くときはペンと紙が大切らしい。聞きながらメモをとっていく。難しい専門用語が分からないときは、ペンを持つ手が止まる
止まることで、言葉が理解できていないと自分で分かる。医師も気づく。だから聞き直せるし、医師の方から丁寧にかみ砕いてくれることもあるそうだ。先ごろ東京であった「あたたかい医療と言葉の力」というシンポジウムでお聞きした
患者と医師の会話は多くの場合、不安の中ではじまる。緊張もある。「白衣高血圧」と言って、白衣を見るだけで血圧の上がる人もいる。そのうえ弱る気持ちを抱えていれば、メモを心がけたにしても、難語の理解は楽ではない
そうした言葉の壁を低くできないかと、平易に言い換える取り組みが進んでいる。国立国語研究所の委員会が、まず57語についてまとめた。「浸潤」は「がんがまわりに広がること」、「寛解」は「症状が落ち着いて安定した状態」など例が並ぶ
カタカナ語も多い。それらを読んで、わが無知と誤解もずいぶん正された。そして「願わくば」と思った。分かりやすくなった言葉が、医師の心の温かみを乗せていてほしいものだ
亡くなった臨床心理学者の河合隼雄さんは「病に対する最大の処方は希望である」という言葉が好きだった。医療現場の多忙は知りつつ、胸にたたんでほしい至言と思う。温かみに裏打ちされたとき、医師の言葉は「わかりやすさ」を超えて、患者をささえる「力」となるのに違いない。
與其說我對醫學有興趣
不如說我對醫病之間的信任關係著迷
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